第112章

この二十億円という資金を手土産に皐月正山に媚を売れば、彼は間違いなく自分を見直すに違いない。

翠川螢の計算は完璧だった。ただ、皐月夏帆にはその腹黒い計算など知る由もなかった。

江川老夫人が皐月夏帆を値踏みするように見つめるのと同時に、皐月夏帆もまた、この老婆を観察していた。

御年七十歳ほどだろうか。しかし、その顔には実年齢以上の深い歳月の痕跡が刻まれている。医者である皐月夏帆は、老婆の顔色やツボの様子から、彼女の身体に潜む不調を瞬時に読み取っていた。

車椅子での移動は、おそらく下肢の血流障害によるものだろう。

顔色がどす黒く沈んでいるのは、長期間の闘病か、あるいは座りっぱなしの生活...

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