第117章 主役

「口先だけだな」

そう言いながらも、高原賢治の纏う冷気は確かにいくらか和らぎ、口角がわずかに上がって甘やかすような弧を描いた。

平川希は呆れて唇を引き結び、彼の言葉には応じなかった。

平川希と高原賢治のやり取りを見ていると、平川希は口では適当にあしらっているものの、高原賢治の要求に対しては、彼女自身も気づいていないような甘さが見え隠れする。

一方、高原賢治は平川希の素っ気ない態度を見抜いていながらも、その実におざなりな笑顔でさえ彼の機嫌を良くさせるのだった。

井口誠也の瞳が、気づかれぬほど微かに沈む。高原賢治が平川希にとってずっと重要な存在であること、それは傍観者である自...

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