第265章

「江崎さん。こちら、お母さまの退院手続き一式です。おめでとうございます」

看護師長は必要書類をすべて整え、江崎鏡の手に渡した。

ようやくこの日が来た。胸の奥にいくつもの感情が押し寄せ、鏡は口元だけでそっと笑う。両手で受け取りながら、込み上げる高揚を抑えられなかった。これから先は、母とずっと一緒にいられるのだから。

「ありがとうございます。母がお世話になりました」

鏡が踵を返して立ち去る。遠ざかっていく背中を見送りながら、看護師長はふと、以前ここへ見舞いに来た男のことを思い出した。秋澤月子の――自分は元夫だ、と名乗った男。

そのとき、傍の看護師が小声で言った。

「江崎さんって、ほん...

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