第266章

MYの正面に着くと、江崎鏡は車を降り、窓ガラスに映る自分の顔をちらりと確かめた。血の気が引いて、真っ青だ。けれど秋澤月子はやけに上機嫌で、鏡は胸のむかつきを押し殺し、無理やり口角を上げてついていくしかなかった。

そのときになって、古村陽平は江崎鏡の別の顔を知る。

母親の前では、誰だって子どもになる。どれだけ大人になって、どれだけ心が成熟していようと、母の庇護があるだけで、最後にはあっけないほど脆くなる。

ふいに、陽平は幼い頃の自分を思い出した。古村恵子は、彼をほとんど顧みなかった。

だから彼が受け取ったのは、祖父の愛情と父の愛情、せいぜい使用人たちの好意くらいだ。

――母の愛、とい...

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