第276章

なるほど、そういうことだったのね。

江崎鏡はぱちぱちと瞬きをして、ほっと息を吐くと、電話の向こうへ返した。

「わかりました、先輩。いつもこちらのこと気にかけてくださって……ありがとうございます。時間ができたら、取りに行きますね」

「鏡、声がちょっと変じゃないか。最近、無理してない? 身体だけは本当に大事にしろよ。秋澤おばさんもだんだん良くなってきてるし、少し休んだっていいんだ。だって、お腹の……」

天野尋は言いかけて、言葉を飲み込んだ。けれど鏡には、彼が何を言いたいのか痛いほどわかる。

彼女は不安に駆られて洗面所の中をぐるりと見回し、誰もいないのを確かめてから、小さく声を落とした。...

ログインして続きを読む