第292章

葉山市までの道のりは、そう遠いわけじゃない。けれど、なんだかんだで手間はかかる。

移動中の三人はほとんど一日中顔を突き合わせているようなもので、古村陽平と天野尋は折に触れて水面下で張り合っていた。江崎鏡はそんなのに付き合う気もなく、淡々と食事をして、休めるときに休むだけ。

――なのに、天野尋のほうが放っておかない。

鏡にはわかっていた。尋は、まだ自分を諦めていない。あのとき、はっきり断ったはずなのに。しかも今の鏡は身重で、尋の気遣いはやけに細やかだった。

ただ、それは事情を知らない「子どもの父親」――古村陽平の目には、白々しい芝居にしか映らない。

陽平だって、図太い人間を見たことが...

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