第293章

天野尋が、ふいに腹を立てた。

けれど江崎鏡にも、それは理解できる。相手の立場に立てば、彼が彼女を好きになったこと自体は、何も悪くないのだから。

名ばかりで、形だけ保っている――そんな夫婦関係のために、わざわざ道を空けてやる必要もない。

天野尋は何ひとつ間違っていない。古村彩に好かれているからといって、自分が好きになった相手を諦める理由にもならない。

ただ鏡は、自分の言葉をもっとはっきりさせるべきだと思った。

そのころ、もうひとり苛立っている男がいた。古村陽平だ。怒りにまかせて外へ出たものの、遠くへは行かず、せいぜい玄関口あたりで足を止めていた。さっきの天野尋の詰問も、聞こえないはず...

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