第301章

「彼女の原稿がどうした?」

江崎鏡が淡々と問い返す。バルコニーの縁から吹き込む冷たい風が、頭の奥を一瞬だけ冴えさせた。

自分は古村陽平の庇護が必要なのか。

たぶん、昔は必要だった。

けれど今は――もう、とっくにその時期を過ぎている。

「彼女が古村家の美術部で働いてた間に出した原稿は全部、おまえの作品の盗用だった。葉山言に調べさせた。……その様子だと、前から知ってたんだな」

古村陽平の目が赤くなる。江崎鏡がここまで耐えていたなんて、想像もしていなかった。

何が怖かった? それとも、どうでもよかったのか?

そんなはずがない。

あれは彼女が一筆一筆、削るように描いた血の通ったもの...

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