第304章

古村恵子は、怒りが一瞬でしぼんだ。秋澤月子に一矢報いることもできない。ならば、と目の前の苦いコーヒーを、向かいの豆乳の椀へざばりと注ぎ込んだ。

黒と白がまだらに溶け合っていくのを見つめ、古村恵子はふっと手を止める。――その瞬間、何かが頭をかすめた。

「誰が、うちの娘が……」

そうだ。秋澤月子が言いかけて、飲み込んだあの一言。

古村恵子は、そこに妙な引っかかりを覚えた。だが考えれば考えるほど、肝心の形が掴めない。

そのとき、唐突に電話が鳴って、思考をぶつりと断ち切った。

スマホを取って画面を見る。発信者は木崎さん。

古村恵子の表情が、すっと硬くなる。

古村彩が家出して、古村陽平...

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