第335章

江崎鏡がちょうどドアを押して入ってくると、江崎明が出ていこうとする気配を見せた。鏡は一瞬足を止め、身体をずらして通り道を空ける。

「どうした。帰るのか?」

鏡の姿を認めた途端、明は乱暴にふうっと息を二度吐き、結局またソファへどさりと腰を落とした。

「せっかく来たのに、なんで帰るんだよ」

――要するに、お前に会った以上、はっきりさせないと帰れない、ということだ。

鏡にはわかっていた。明が来たのは、あの次女の鬱憤を晴らすためだ。

自分に手加減しろと言いに来たのか、あるいは古村陽平に手加減させろと言いに来たのか。

どちらにせよ、明という男の「家族」という天秤が、長女である自分に傾いた...

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