第351章

古村彩は、天野尋が江崎鏡をそんな呼び方で呼んだことに驚いた。目尻の涙を指でぬぐい、天野尋の身体からそっと離れる。見上げる視線には、言葉にしなくても伝わる含みがあった。

天野尋は、自分でもどうしてそれを読み取れたのかわからない。

一瞬、言葉に詰まってから答える。

「……わかってる。あいつの心に俺はいない。だから、ちゃんと諦める」

もうここまで来たら、古村彩も恋だの愛だのに構っていられなかった。

視線を落とすと、天野尋のポケットから煙草の箱が今にも落ちそうになっている。彩はぱちりと瞬きをして、手を差し出した。一本ちょうだい、と言外に示す。

……

年の瀬が近い。

雲市の人間は毎日、...

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