第371章

ときどき江崎鏡は思う。自分と古村陽平は、ここで立ち止まってしまうくらいがちょうどいいのかもしれない、と。

二人はかつて夫婦だった。きれいに別れて、波風を立てずに暮らせるのがいちばんだ。

たとえば今みたいに。古村陽平は助手席で黙って煙草を吸い、鏡は前だけを見てハンドルを握る。これから先、友人として距離を保てるならそれでいい。わざわざ剣呑になって、互いの顔に泥を塗る必要なんてない。

鏡の胸の奥には、もしこのまま穏やかに続くなら、いつか子どものことも——そんな考えがふっとよぎった。次の瞬間、鏡は自分を責める。

古村家とはきっぱり縁を切ると決めたのに。どうして、いまさらそんなことを思うの。

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