第11章

新谷音羽がオフィスのドアを開けた瞬間、胸の鼓動がまだ落ち着かないまま――スーツ姿で、きっちりメイクを決めた女が書類を抱えて歩いてくるのが見えた。

女は、音羽が蒼井沢言の執務室から出てきたことに気づく。頬には、どうにも誤魔化しきれない赤み。

完璧な営業スマイルが、ほんの一瞬だけ引きつった。だが次の瞬間には、何事もなかったように整う。

「蒼井社長」

女は開け放たれた扉を軽くノックし、そのまま中へ入っていく。

柳沢雲子。

蒼井沢言がデザイン部に配置した秘書のひとりだ。雲子はサイン待ちの書類を差し出しながら、視線の端で――音羽の手にある、まだしまいきれていない入社書類を捉えた。

「蒼井...

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