第112章

その快感は歪で、闇に濡れているのに――どうしようもなく現実だった。

物心ついた頃からずっと、蒼井翼は蒼井沢言という男の「光」の下で生きてきた。

誰もが言う。お前は叔父様には敵わない、と。

だが今、その神壇に祀られていた男が――たった一人の女のために、ここまで堕ちている。

蒼井沢言は翼を見ようともしなかった。視線は、新谷音羽の青白い頬に残る、まだ消えきらない赤い痕へ滑り――瞳孔がきゅっと縮む。

「……あれは何だ。顔、どうした」

「金田おばさんがやりました」

蒼井翼は淡々と事実だけを置いた。ひとつひとつの言葉が、重い槌みたいに蒼井沢言の胸を叩く。

「叔母様を突き飛ばしたのも、あの...

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