第117章

蒼井翼は立ち上がり、椅子の背に掛けていたスーツの上着を手に取った。

「送っていく」

「大丈夫。ひとりで帰れるから」

新谷音羽は即座に拒み、踵を返して立ち去ろうとする。

だが、蒼井翼が数歩で追いつき、彼女の前に回り込んだ。

見つめられる。

いつもは柔らかな笑みをたたえているその瞳が、今は複雑な色を渦巻かせていた。

彼はゆっくり口を開く。声は小さいのに、呪いみたいに重く、音羽の足を床に縫い止める。

「音羽。そんなに他人行儀にするな」

一拍置いて、残酷なくらい優しく、言い聞かせるように続けた。

「認めたくなくても、血の上では……今のおまえは、俺の姉だ。守るのは、俺の役目だろ」

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