第119章

黒のベントレーが深夜の街を疾走し、残像みたいに闇を裂いた。唐澤心美のマンションの前で、きぃぃっと耳を刺すブレーキ音。

車が止まりきる前に、蒼井沢言はドアを蹴るように降りた。

密かに新谷音羽を守らせていた男から、さっき届いた報告は――路地裏で起きた、あの一瞬の恐怖を、必要最低限の言葉だけで切り取ったものだった。

蒼井沢言は足を止め、見上げる。

灯りの点いた窓。そこに彼女がいる。

心臓が、見えない手で握り潰されるみたいに痛んだ。息が吸えない。

上がれない。

上がる資格がない。

「守る」と口にしておきながら、いちばん危ない瞬間に彼ができたのは、他人の口から知らされることだけだった。...

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