第125章

H市の夜はやさしい。けれど、新谷音羽が古い時間の匂いが染みついた部屋に座っていると、手足の先まで冷え切っていくのを止められなかった。

一分、また一分。

スマホの画面はずっと沈黙したまま。蒼井翼からの返信はない。

世界をひっくり返しかねない、あの写真。

深海へ小石を落としたみたいに、波紋ひとつ立たない。

ようやく灯った希望も、この長すぎる沈黙に冷まされて、じわじわと消えていった。

音羽はスマホをしまい、母の遺品へ意識を戻す。鍵のかかった日記を手に取り、表紙の金箔の文様を指先でそっとなぞった。ひんやりした感触の向こうに、若い頃の母の鼓動が触れられる気がして。

前半は、恋に落ちた少女...

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