第148章

蒼井翼の出現は、汚れた染みの塊みたいに、新谷音羽の周囲の空気を一瞬で濁らせた。彼女は目を上げる気にもならない。胃の奥がぐらりと掻き回され、呼吸をすることさえ気持ち悪い。

立ち上がって、ただここから離れたかった。生理的に無理な相手から、一秒でも早く遠ざかりたい。

だが一歩踏み出した瞬間、手首が震える力でがっちり掴まれた。

「音羽……」

蒼井翼の声は、紙やすりで擦ったみたいにざらついていた。死にかけの懇願が滲む。

「行かないで。頼む、少しだけ……ほんの少しでいい、話を聞いてくれ……」

音羽は嫌悪で振りほどこうとした。けれどその手は鉄の万力みたいに、意地でも離そうとしない。

ようやく...

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