第20章

黒いベントレーがショーカ・ビルのエントランスに滑り込む。車内は終始、重い沈黙だった。

新谷音羽はシートベルトを外すと、もう彼に視線すらくれず、ドアを押し開けてそのまま降りた。

背後から蒼井沢言の声が追ってくる。どこか、彼女には理解できない疲れを滲ませた声で。

「今日のことだが……」

音羽は歩みを止めない。振り返りもせずロビーへ入って、彼の言葉の続きを、全部置き去りにした。

自分の個室オフィスへ戻るなり、椅子に身体を投げ出す。

頭の中は、ぐつぐつ煮えたスープみたいにまとまりがない。

目を閉じ、息を吸う。吐く。

——押し込めろ。今は仕事だ。

ほどなくして、コンコン、とドアが叩か...

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