第51章

新谷音羽は、隣で無表情のままハンドルを握る男をちらりと見た。ほとんど迷いもなく答える。

「いいよ」

――けれど、口にした瞬間に何かを思い出して、慌てて言い直した。

「……でも、先に行ってて。こっちは……たぶん、少し遅れる」

「構わない。待ってる」

通話を切ってから、新谷音羽は隣の蒼井沢言に言った。

「前の交差点で降ろして。友だちと約束してるの」

蒼井沢言は前を見たまま、ハンドルを握る指に力をこめた。声には感情が乗らない。

「店は」

「大丈夫。タクシーで行けるし」

「店はどこだ」

彼が横目で見てきた。言い直しただけなのに、拒否を許さない圧が混ざる。

新谷音羽は背筋がぞわ...

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