第53章

女が一人、家の玄関先で身を縮めていた。薄いワンピース一枚。長い髪は乱れて肩に絡みつき、濃い酒の匂いがまとわりついている。

物音に気づいたのか、女――星野結月が、ゆっくりと顔を上げた。頬には涙の跡が何本も縦に走っていた。

「沢言……」

蒼井沢言を見た瞬間、彼女の目に灯りがともる。かすれて、甘えるような声。床に手をついて立ち上がり、ふらつきながら、そのまま抱きつく勢いで突っ込んできた。

蒼井沢言の表情が、すっと冷えた。

ほとんど反射だった。新谷音羽をさっと背中へ庇い、半歩だけ体を外す。星野結月の「飛び込み」は、空を切った。

「……っ」

結月はよろめき、倒れそうになって踏ん張る。信じ...

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