第62章

二人の会話は、新谷音羽の耳に一言残らず届いていた。胸の奥に残っていた最後の温もりが、音もなく踏み砕かれていく。

自嘲するように口角を引き上げる。――なるほど。彼らが待っていたのは、彼女が「帰ってくる」ことじゃない。彼女の後ろにいる蒼井沢言、そして彼がもたらす利益だった。

新谷邦夫がまだ何か言おうとした、その時。玄関の方に立つ人影が視界に入ったのか、彼は反射的に言葉を飲み込み、顔つきを変えて駆け寄った。

「音羽? いつ来たんだ? どうして入口で突っ立ってる、入ってこいよ」

そう言いながら、邦夫の視線は落ち着きなく音羽の背後を探る。

目当ての人物がいないとわかった瞬間、失望が一瞬だけ顔...

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