第73章

蒼井沢言は、羞恥と苛立ちが入り混じった彼女の表情に思わず笑みをこぼし、もう少しからかってやろうとした――その瞬間。

社長室のドアが、何の前触れもなく外から押し開けられた。

「沢言、わたし……」

飛び込んできた女の声は、目の前の光景を見た途端、喉の奥でぷつりと途切れた。

星野結月が、上品なケーキ箱を提げて入口に立ち尽くしている。咲きかけた笑顔が、口元でそのまま固まった。

室内では、新谷音羽がまだ蒼井沢言の胸元に縋るような姿勢のまま。蒼井沢言は彼女を見下ろし、眉と目尻に、星野結月が一度も見たことのない柔らかさと甘さを宿していた。

温かくて、そして刺さるほど眩しい光景。

それは鋭い刃...

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