第77章

彼女は気まずそうに顔を背け、窓の外へ流れていく街並みを見つめたまま、小さくぼそりと呟いた。

「そんなこと……ないし」

隠しきれない頬の赤みが、答えそのものだった。

唐澤心美は察したように「ははっ」と笑い、これ以上は追及しなかった。ただ胸の奥で、親友の幸せをそっと喜ぶ。

生まれ育った家に押し潰されそうだったあの子が、ようやく自分の鎧と――同時に、いちばん柔らかな弱点を手に入れたのだ。

それから数日は、妙なほど静かだった。新谷音羽はデザイン画の最終追い込みに没頭し、新谷家の胸糞な揉め事など、ほとんど頭から消えていた。

だが、平穏は長く続かない。

数日も経たないうちに、スマホがまるで...

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