第8章

新谷音羽は大きく息を吸い込み、扉へ歩み寄ってドアを開けた。

廊下に立つ蒼井沢言は、静かな山みたいだった。何もしていないのに、目に見えない圧だけがじわりとこちらへ迫ってくる。

今日は昨日より少しくだけた格好で、濃いグレーのカシミヤニット。肩幅も脚の長さも際立って、背筋がすっと伸びている。

手ぶらのまま、蒼井沢言の視線が音羽を上から下までなぞった。整えた髪、首元で淡く光るネックレス、そして――平静を装う瞳。

深い眼差し。感情の底が読めない。まるで、骨の髄まで見透かされているみたいで、音羽は喉の奥がひりついた。

「……どうぞ」

音羽は身を引き、通り道を空ける。

蒼井沢言が一歩、玄関へ...

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