第83章

新谷音羽は淡く視線を流しただけで、くるりと背を向けた。

本当なら、面倒は避けたい。余計な火種なんて抱えたくない。

けれど厄介ごとは、こちらが望まなくても勝手に寄ってくる。

浅田美晴が、買ったばかりのフルーツティーを手に、ヒールの音を鳴らしながら真っすぐこちらへ歩いてくる。

目線は前だけ。新谷音羽など見えていない、という顔。――なのに、距離が詰まった瞬間。

どんっ、と身体ごとぶつけてきた。

このまままともに当たれば、妊娠中の新谷音羽は転ぶ。

新谷音羽の目がすっと冷える。

反射で半歩、横へ。

同時に、右足をほんの少しだけ――さりげなく引っかけた。

「きゃっ!」

甲高い悲鳴。...

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