第89章

新谷浩市の姿が廊下の突き当たりへ消えても、怨みを煮詰めたような罵声だけが、まだ空気にこびりついている気がした。

新谷理恵は突き飛ばされた勢いでよろめき、蒼井沢言が新谷音羽を庇うように前へ立つ姿を見て、目を泳がせた。両手をこすり合わせながら、おずおずと口を開く。

「音羽……いえ、蒼井夫人。あの……少しだけ、二人で話せませんか」

蒼井沢言の眉間が、瞬時にきつく寄った。周囲の空気が、さらに重く沈む。

この女を信用できるはずがない。まして音羽を、二度と近づけたくもない。

だが新谷音羽は、彼の張り詰めた腕にそっと手を置いた。

新谷理恵が何を言うかなど、わかりきっている。どうせ今さらの言い訳...

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