第92章

蒼井翼の温和な顔つきが、すっと冷えた。叱りつけようと口を開きかけた、その瞬間――千野由佳の表情が、いっそう狂気じみていくのが見えた。

「全部、お前のせいだ、このクズ!」

千野由佳の理性がぷつりと切れた。彼女は携えていたバッグから、ぎらりと鋭い光を放つナイフを引き抜く。病院の青白い照明を受けた刃が、ぞっとするほど鋭く光った。

「私の全部を壊した! 殺してやる!」

千野由佳は、新谷音羽を蒼井翼の新しい女だと決めつけていた。嫉妬で頭がどうにかなりそうなほどに。

口では音羽のことを叫びながらも、その怨毒に濁った目は、蒼井翼だけをがっちり捉えている。

獣みたいな咆哮を上げ、ナイフを握ったま...

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