第93章

新谷音羽は無傷のほうの手で、そっとボトルのキャップをひねって開ける。綿棒に消毒液を含ませてから、ちらりと彼を見上げた。

「手、出して」

声は柔らかい。けれど、拒む余地を与えない芯があった。

ひんやりした指先が、彼の手の甲をそっと支える。音羽は視線を落とし、綿棒で傷の周りの血を少しずつ拭い取っていく。触れ方は羽毛みたいに軽く、くすぐったい痒みがじわりと広がった。

蒼井翼の呼吸が、ふっと止まる。

距離が近すぎる。灯りの下で、彼女の長い睫毛が頬に淡い影を落としているのが見えた。鼻先には、彼女の清潔で淡い匂い。そこに微かな血の匂いが混じって、奇妙に危うい空気を作り出す。

青白いのに、どこ...

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