第94章

蒼井翼は、自分がどうやって警察署を出たのか覚えていなかった。ただ、街のネオンがやけに眩しくて、目眩がする。

千野由佳のあの言葉が、呪いみたいに頭の中でぐるぐる回り続ける。

――誤魔化せるのか?

新谷音羽が俯き、彼の傷口を処置してくれたときの横顔が浮かぶ。真剣で、静かで。彼女から漂う淡い匂いまで思い出して、胸の奥がどくん、と跳ねた。

馬鹿げている。みっともない。罪深い。

蒼井翼は車のエンジンをかけ、深夜の道路をあてもなく走った。気づけば、けばけばしい光に染まったナイトクラブの前でブレーキを踏んでいた。

耳を壊しそうな音楽と、揺れる人波。今の彼にとって、それだけが一時的な麻酔だった。...

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