第2章

「好きにしろ。残りたいなら残ればいい」

青山雅紀はついに折れた。

青山光は、これまで送り込まれてきた女たちとはまったく違っていた。

そう言い残すと、青山雅紀は使用人に車椅子を押させて部屋を後にした。

一人残された青山光は、彼の後ろ姿を見つめながら物思いに耽る。

今の青山雅紀が自分の気持ちを信じてくれないことは分かっている。だが、前の人生で彼が自分にしてくれた優しさを知っている以上、青山光が青山家を離れることなどあり得なかった。

前の人生の記憶を頼りに、青山光はすぐに青山雅紀の寝室にたどり着いた。

まだ安っぽい赤い婚礼衣装を身に着けていた彼女は、青山雅紀のウォークインクローゼットに忍び込み、手頃な彼の部屋着を拝借してシャワーを浴びた。

幸い今は夏なので、青山雅紀の服はぶかぶかではあったが、まあ許容範囲だ。

青山光は濡れた髪を拭きながら、寝室を出た。

前世で何年もこの別荘で暮らしていたため、勝手は分かっている。

彼女は無意識に、寝室の向かいにある固く閉ざされた書斎のドアに目をやった。青山雅紀は暇さえあれば、陽の当たらない書斎に閉じこもるのが常だった。

足が不自由なせいか、彼は陽の光を好まず、外出もしたがらない。

それではいけない。

そう思い、青山光はドアに近づき、軽くノックした。「青山雅紀、あなた、いるの?」

ドアには内側から鍵がかかっていた。

これで青山光は、青山雅紀が書斎にいると確信する。

彼女はぱちぱちと瞬きをすると、くるりと踵を返して階下へ向かった。

中島さんに昇降式の梯子を借り、青山光は家の使用人に手伝ってもらって、書斎の真下まで運ぼうとした。

しかし、別荘の使用人たちは皆、彼女が青山家にお金で買われ、厄払いのためだけに嫁いできた女であり、主から好かれていないことを知っていたため、誰も彼女を相手にしなかった。

それを見て、青山光は自ら梯子をうんうん唸りながら動かし始める。

結局、見かねた中島さんが手伝って梯子を運んでくれた。

そして、青山光が梯子を固定し、身軽に登っていくのを、彼は固唾を飲んで見守った。

中島さんは肝を冷やして叫ぶ。「光さん、危ない! 早く下りてください!」

青山光は手を振り、中島さんに大丈夫だと合図を送った。

梯子は高いが、二階の書斎のベランダにはまだ届かない。

高さを測りながら、青山光は手足を軽く動かした。

彼女は普段からエクストリームスポーツが好きで、スカイダイビングやパラグライダー、素手でのロッククライミングなどお手の物だった。

中島さんの悲鳴が響く中、青山光は勢いよく跳躍し、両手でベランダの縁を掴んだ。手足を巧みに使い、体を揺らすと、そのまま素手でベランダによじ登ってしまった。

ガラス張りのフレンチドア越しに、視界を遮る灰色のカーテンを見て、青山光は眉をひそめ、ぼそりと呟く。「やだ」

彼女は手を伸ばし、窓を叩いた。「青山雅紀、いるんでしょ! ドアを開けて、中に入れて! 青山雅紀……」

青山光がどれだけ呼びかけても、青山雅紀は応じようとしない。

手が赤くなるほど叩いても、無駄だった。

彼女はむっと頬を膨らませ、ガラスドアの鍵を観察すると、自分の髪から小さなヘアピンを一本抜き取った。

ヘアピンを使い、青山光はあっという間に鍵を開けてしまう。

彼女はぱんぱんと手を叩き、唇の端に淡い笑みを浮かべた。

この程度の鍵では、彼女の足止めにはならない。

カーテンをさっと引き開け、青山光は笑顔で呼びかけた。「あなた」

その時、青山雅紀は両手で机に体重をかけ、立ち上がろうと試みていた。

物音に気づき、彼は視線をベランダの方へ向ける。

青山光の視線とぶつかった瞬間、青山雅紀の表情は冷え切り、瞳に不快の色がよぎった。

青山光は、青山雅紀がさっと車椅子に座り直すのを見た。

はっと気づく。彼は今、立ち上がろうとしていたのではないだろうか。

彼女には微かな記憶があった。前世のこの時期、青山雅紀はまだ完全に立ち上がることはできなかったはずだ。

前世の青山雅紀は手術を頑なに拒み、足が不自由なままでいることを選んでいた。しかし、何がきっかけだったのか、彼は突然海外の病院に連絡を取り、次から次へと手術を受けたのだ。

それだけでなく、青山雅紀は過酷なリハビリを乗り越え、一年もの時間をかけて再び立ち上がった。

それでも後遺症は残り、時折杖が必要だった。

青山光が自分をじっと見ていることに気づき、青山雅紀は冷たい声で追い払おうとする。「出て行け」

青山光は我に返り、彼の方へ歩み寄った。「あなたの様子を見に来たの。あなた、もっと外に出て新鮮な空気を吸わないと。私……あっ……」

安田光が彼に近づこうとしたその時、足元がもつれ、前のめりに倒れ込んでしまった。

彼女はパニックで目を閉じる。派手に転ぶだろうと覚悟したが、意識が戻った時、両手には柔らかい感触があった。

しかも、ほんのり温かい。

彼女は膝をついた姿勢で、青山雅紀の下腹部に顔を深く埋め、手は彼の太ももの内側をしっかりと掴んでいた。

青山雅紀は顔を真っ黒にして、目の前の青山光を呆然と見下ろす。

二人の今の体勢は、どう見ても気まずいものがあった。

青山光の吐息が、青山雅紀の下腹部よりさらに下のあたりにかかる。

青山雅紀の体は瞬時に強張り、体の脇に置かれた両手は固く握り締められていた。彼の顔色はあまり良くない。

「起きろ。いつまでそうしているつもりだ」

視線を落とし、青山雅紀は歯ぎしりしながら言った。

彼は自分の体に起きている変化をはっきりと感じ取っていた。

特に、青山光が顔を埋めている場所が。

「わざとじゃないの! すぐに起きるから……」

青山光は彼の言葉を聞き、慌てて起き上がろうとする。

だが、起き上がろうとした瞬間、パニックのあまり足がもつれてしまった。

彼女は再び青山雅紀の腕の中へと倒れ込み、今度は両手が気まずい場所に置かれてしまった。

手のひらに伝わる柔らかな感触と灼けるような熱さに、青山光の頬はかっと赤くなる。

ああ、神様、いっそ私を殺してください。

一体自分は何をしてしまったのだろう?

青山光は泣きたい気持ちになりながら、心の中で自分にツッコミを入れた。

青山雅紀の状況も、さして変わらない。

彼の体は強張り、声はさらに数度、氷のように冷たくなった。「起きろ」

もし青山光がこのままの体勢で自分に寄りかかり続ければ、青山雅紀は自分が反応してしまうのを止められる自信がなかった。

彼は両足が一時的に麻痺しているだけで、他の機能はすべて正常なのだ。

青山雅紀の、自分を噛み殺さんばかりの声音に、青山光は無意識に両手でぎゅっと掴んでしまった。

頭上から、男の呻き声が聞こえる。

青山光ははっと飛び上がった。「ご、ごめんなさい! 本当にわざとじゃないの! 大丈夫? どこかぶつけた? 見せて」

青山雅紀の険しい顔色がちらりと見え、青山光は彼を痛がらせてしまったのだと思い込んだ。

彼女は慌てふためいてしゃがみ込むと、手探りで彼の服をめくって確認しようとする。

その瞬間、青山雅紀が大きな手で安田光の手をがしりと掴んだ。その瞳には、警告の色が満ちていた。「青山光」

この女は、自分が何をしているのか分かっているのだろうか?

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