第5章
青山光は青山雅紀を押してしばらく庭で日向ぼっこをさせてから、屋敷へと連れ戻った。
彼が抵抗しているのが明らかに感じ取れたので、彼女も急ぎすぎることはできなかった。
一歩一歩、ゆっくりと進むしかない。
青山雅紀が書斎に閉じこもろうとしたところを、青山光に止められた。
「あなたの本棚、本がたくさんありますね。読んでもいいですか?」青山光は壁一面の本棚を指差して言った。
青山光はただ、青山雅紀のそばにいるための口実を探しているだけだった。
彼女のそんな下心は、青山雅紀には一目で見抜かれていた。
彼は冷たい声で拒絶する。「一人にしてほしい」
言葉が終わらないうちに、青山光は彼の目の前で堂々と書斎に入っていった。
彼女は手当たり次第に『神農本草経』を手に取ると、青山雅紀の隣に腰を下ろした。「約束します。絶対に邪魔はしませんから」
青山雅紀は彼女がうつむいて黙々と本を読む様子を見て、不機嫌な顔つきだったが、それでも彼女を追い出すことはなかった。
三十分後、青山雅紀は青山光が机に突っ伏して眠ってしまっていることに気づいた。
彼は横目で青山光を観察する。この女は図太いと言うべきか、それともただ単純なだけなのか、本当に分からない。
今日の青山光の様々な言動を思い返す。
青山雅紀はスマートフォンを取り出し、アシスタントにメッセージを送った。『安田光を調べろ』
やはり彼は、青山光が自分のそばにいるのは何か別の目的があるからだと信じきれなかった。
メッセージを送り終えると、青山雅紀は車椅子を操作して書斎を後にした。
自分のそばに突然誰かがいるという状況には、本当に慣れていなかった。
それなのに、今や家には青山光という存在が増えてしまった。
これからの日々が、決して退屈なものにはならないだろうと、青山雅紀は容易に想像できた。
青山光が再び目を覚ましたのは、もう夕方に近い頃だった。
彼女ははっと目を開け、見慣れない周囲の環境をしばらく観察してから、自分が青山雅紀の家にいることを思い出した。
書斎にはもう彼の姿はなかった。
彼女の体には、薄いブランケットが掛けられていた。
ブランケットは中島さんが掃除に来た際に掛けてくれたものだった。
青山光はそれを知らない。
彼女はまず二階で青山雅紀の姿を探し、一通り見回った後、階下へ降りた。
その頃、中島さんはすでにキッチンでメイドたちに指示を出し、忙しく立ち働いていた。
「中島さん、雅紀はどこですか?」青山光はいくら探しても青山雅紀が見つからず、中島さんに助けを求めるしかなかった。
彼女は青山雅紀の両脚をマッサージしてあげようと考えていたのだ。
中島さんは彼女を一瞥して言った。「若様はホームシアターにおられます。奥様、今は若様の邪魔をしない方がよろしいかと」
青山光はそれを聞くと、眉をひそめた。「どうしてですか?」
「奥様、若様は一人で過ごすことに慣れておられます。奥様が若様のためを思っていらっしゃるのは分かりますが、やはり少しずつ進めるべきでしょう」中島さんは思わず青山光に忠告した。
中島さんは最初、青山光のことをあまり快く思っていなかった。
彼女の今日の行動の多くは、以前の青山雅紀が決して許さなかったことであり、中島さんは彼が自制を失って怒り出すのではないかと心配していたのだ。
事故の後から、青山雅紀の機嫌は晴れたり曇ったりと不安定で、時には気分の落ち込みがリハビリ治療にまで影響を及ぼすこともあった。
それは中島さんが最も見たくない光景だった。
今日も若様は理学療法を拒否し、ホームシアターに閉じこもってしまったのだ。
青山光は中島さんの言うことにも一理あると感じ、頷いて同意を示した。「中島さん、雅紀が次に病院へ行くのはいつですか?」
青山雅紀の脚は半月に一度、病院で再検査を受けていたが、具体的な日付は青山光も覚えていなかった。
彼女はもっと青山雅紀のことを知り、もっと心を配りたいと思っていた。
そして何より、青山光は青山雅紀の脚の怪我の様々な状況を把握する必要があった。
そうして初めて、彼の脚のリハビリ計画を立てることができるのだ。
中島さんははっと声を上げた。「あら、奥様に言われなければ忘れるところでした。明日が若様の病院での再診日ですわ」
そう言うと、中島さんは慌ただしく踵を返した。
ここ数日、縁起直しの件で忙しくしていたせいで、中島さんはこんなにも重要なことを忘れてしまっていたのだ。
病院に連絡して、事前に貸し切りにする準備をしなければならない。
中島さんが去った後、青山光はキッチンに飛び込み、手伝いを始めた。
料理が出来上がり食卓に並べられると、青山光は座って待っていた。
時間は一分、また一分と過ぎていくが、青山雅紀の姿は一向に現れない。
一時間ほど待っただろうか、青山光はゆっくりと立ち上がり、メイドに青山雅紀の元へ案内させようとした。
人は鉄、飯は鋼。一食抜けば腹が減って力が出ない。
青山雅紀はあまりに不親切だ。
その時、青山雅紀が誰かに押されてレストランにやって来た。
青山光はすぐに、彼の後ろにいるのが青山雅紀のアシスタント、白石健太だと分かった。
前世で、白石健太は青山光に対して良い顔をしなかった。
もちろん、今も同じだ。
白石健太から自分に向けられる警戒の視線をはっきりと感じ、青山光は内心で身をこわばらせた。
なぜ彼はあんな目で自分を見るのだろう?
白石健太は先ほど青山雅紀の指示を受けると、すぐに安田光の身元調査に着手していた。
安田家の長女という身分を除けば、安田光の経歴は疑念を抱かせるほどに真っ白だった。
まるで誰かに意図的に痕跡を消されたかのようだ。
だからこそ、白石健太は一層安心できなかったのだ。
彼は青山雅紀の合図で席につき、一緒に夕食をとることになった。
青山光は青山雅紀に向かって言った。「明日、病院に付き合います」
青山雅紀が断る間を与えず、青山光は先手を打った。「ちょうど少し体調が悪いから、診てもらいたいの。いいでしょう?」
青山雅紀は彼女を淡々と一瞥したが、同意も拒否もしなかった。
その様子を見て、青山光は柔らかく微笑んだ。
彼女にしてみれば、断らないのは同意したのと同じだった。
白石健太が食事を終えて帰った後、青山光は青山雅紀の脚をマッサージすると言って譲らなかった。
青山雅紀は即座に拒否した。
だが、まさか青山光が寝る前に寝室に忍び込み、ベッドに横たわる青山雅紀に迫ってくるとは思わなかった。
青山光は布団をめくった。「青山雅紀、わがままは駄目です。血行を良くしないと。将来あなたが立ち上がるために、筋肉がこわばらないようにするためです」
青山光の言葉に、青山雅紀は自分の両脚を嘲るように見つめた。「立ち上がる? 俺の脚はもう駄目になったんだ。立てるわけ……」
「青山雅紀、あなたは絶対に立ち上がれます。自暴自棄にならないで」青山光はベッドの縁に座り、彼の両脚を自分の膝に乗せると、手慣れた動きでマッサージを始めた。
前世では、青山雅紀は確かに立ち上がったのだ。
この人生でも、きっとできるはずだ。
青山雅紀は唇を引き結び、顔をそむけてそれ以上何も言わなかった。
その様子に、青山光はそっとため息をついた。「今の医療技術を信じなきゃ。諦めるなんて考えちゃ駄目。治療に積極的に協力しないと」
彼女はそう言いながら、マッサージを続ける。
青山光の手つきは一見すると無茶苦茶に見えるが、実際には一押し一押しが的確にツボを捉えていた。
押すたびに、青山光は横目で青山雅紀の反応を窺っている。
ほんのわずかでも細かな反応があれば、青山雅紀の脚にはまだ治療の望みがある。
青山光は何度も繰り返し押し、そのたびに少しずつ力を強めていったが、青山雅紀からは何の反応もなかった。
マッサージの終わりには、青山光は実際、少し気落ちしていた。
ほんの少しでいい。ほんの少しだけでいいのに。
青山光はがっくりと肩を落とす。どうしてこうなるのだろう?
彼女のその表情は、すべて青山雅紀の目に映っていた。
その一瞥で、青山雅紀の纏う空気が数段冷たくなった。
彼女は……
どうやら、少しがっかりしているようだ。
俺の脚のせいで!!!

















