第113章

薄原川人の顎が、二ノ宮原子の肩にこつんと当たった。

『昨夜は一睡もしてないんだ。朝くらい、ご褒美にキスのひとつもらえない?』

二ノ宮原子の頬が、さっと赤くなる。

言葉が出てこない。

『わ、私……午後、ちょっと出かけなきゃ』

薄原川人の身体が、ぴたりと固まった。

『出かける?』

昨日あんなことがあったばかりで、今日また外へ出るなんて――良くない。

分かっている。けれど、どうしようもない。

『弥香の新しい家で少しトラブルがあって……学校にも顔を出さないといけないの』

目の前に積み上がった用事だ。

それでも「弥香」という名前を薄原川人に出すのは、胸の奥が落ち着かなかった。

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