第64章

薄原川人はしばらく二ノ宮原子を見つめていたが、やがて顔を背けた。すると、何もなかったかのように空気が元へ戻る。

彼は再び財界の人間たちと愛想よく言葉を交わし、二ノ宮原子は端へ寄ってケーキをつまんだ。

結果発表に、意外性はなかった。

商会会長の最終候補として選ばれたのは、やはり薄原川人だった。

二ノ宮原子は小さなケーキを一つ手に取り、ひと口だけ食べる。

――まずい。

皿へ戻そうとした、そのとき。背後から不意に声がした。

『あんた、前からイチゴが乗ってるやつ以外のプチケーキには手を出さなかったでしょ』

二ノ宮原子は振り返る。

そこに立っていたのは、黒で統一した装いに赤い唇が映え...

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