第65章

せっかくの――これ以上ないほど都合のいい出来事だったはずなのに。

薄原川人が、別の女のせいで自分とのキスをやめたとき。

どうして胸の奥に、ほんのわずかな喪失感が残ったのだろう。

二ノ宮原子はゆっくり手を上げ、胸元を押さえた。

心臓のあたりが、じわりと痛む。

その夜、薄原川人は戻ってこなかった。

原子は早々にベッドへ入ったものの、目は冴えたまま。眠れない。

――どれくらい経ったのか。

夜更け、うつらうつらと意識が沈みかけた頃。

ささ、ささ……と小さな物音が部屋に落ち、次いでベッドが沈んだ。

薄原川人が隣へ潜り込み、そのまま原子の身体を抱き寄せる。

腕の中へ、逃げ道ごと閉じ...

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