第75章

林原淳は営業スマイルを崩さないまま、さらりと言った。

『送っていこうか?』

弥香は林原淳を氷みたいな目で一瞥すると、立ち上がってそのまま一人で歩き去った。

林原淳は鼻先を軽くこすり、内心で「俺の知ったこっちゃない」と肩をすくめる。ついさっき、自分が何食わぬ顔で屈強な男を再起不能にしたことなど、きれいさっぱり忘れたように。

廊下。

背後から、やたらと耳当たりのいい声が二人を呼び止めた。

『二ノ宮原子! やっぱり君だった!』

鈴原そらは狂喜した。暇つぶしにふらっと座りに来ただけだったのに、まさか二ノ宮原子に出くわすなんて。

視界から他のものが消えたみたいに、一直線に近づいてくる。...

ログインして続きを読む