第84章

親指が顎先から喉元へすべり、軽く押し込まれる。二ノ宮原子はたちまち咳き込み、喉を押さえた。

『分かった』

二ノ宮原子は精神病院へ向かう車に乗り込むと、顔に貼り付いていた卑屈さを一瞬で剥がした。

前席の林原淳が、ふいに背筋を撫でるような冷気を感じて、思わず首をすくめる。

『俺たちが行って、本当に二ノ宮正樹たちを捕まえられるのか?』

二ノ宮原子は窓の外へ視線を流す。

幼いころから二ノ宮家で育った。二ノ宮正樹が二ノ宮薫子をどれほど溺愛しているか、嫌というほど知っている。

だからこそ、二ノ宮正樹が拘束を抜けたあと、真っ先に薫子のもとへ行かないほうが不自然だ。

『見れば分かるでしょ?』...

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