第99章

電話を切ったあと、二ノ宮原子は浴室にもうしばらく籠もっていた。

出ようとした、そのとき。

ガラス扉の向こうに黒い影が揺れているのが見えて、背中にぞわりと冷たい汗が噴き出す。

原子は息を殺して近づき、扉を開けた。

そこにいたのは薄原川人だった。

口元に、笑っているのか笑っていないのか分からない表情を貼りつけたまま、声だけはやけに優しい。

『遅かったな。ずいぶん長い』

原子は視線を落とし、瞳の奥の動揺を隠した。

『急に気分が悪くなって……少し長くいました』

薄原川人が手を伸ばす。

原子は反射的に身を引いた。

伸ばした手が、宙で止まる。

『熱を見ようとしただけだ』

そう言...

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