第102章

そのときだった。背の高い影が、扉の向こうからすっと入ってくる。

川崎佑哉。濃い色のスーツに身を包み、オフィスにいる数人へ視線を流し、最後に江原安美へと目を留めた。

巻き髪の女は彼の姿を認めた瞬間、さっきまでの剣幕が目に見えて萎む。

身にまとった空気が違う。金持ち特有の、いや――それ以上の、触れたら終わりだと本能が告げる格の圧。

夫は成金で、金はある。だが、目の前の男だけは絶対に敵に回せない。そういう種類の人間だと、彼女も分かっていた。

川崎佑哉は江原安美の隣まで歩み寄り、彼女の背に隠れる稲子を一瞥してから、巻き髪の女へ視線を向けた。

『さっき外で、誰かが怒鳴ってるのが聞こえた気が...

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