第174章

江原安美はしゃがみ込み、稲子の額にかかった細い髪をそっと耳にかけてやった。できるだけ明るく聞こえるように声を整える。

『おばあちゃんの家に帰ろう。おじいちゃんもおばあちゃんも、稲子に会いたがってるから』

『でも、川崎おじさんが病気なんでしょ? 私たち、看病しなくていいの?』

稲子は小さな眉をきゅっと寄せた。泣いたばかりの目は、まだ腫れが引いていない。

『川崎おじさんの病気は、お医者さんが治してくれる。私たちは医者じゃないし、ここにいても治せないよ』

安美はスーツケースのファスナーを最後まで引き、きっちり閉めた。

片手でスーツケースを引き、もう片方で稲子の手を握る。ドアを開けて廊下...

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