第56章

店員がにこりと笑った。

「あるお客様が、奥様の分も一緒にご注文なさっていました」

江原安美はきょろりと周囲を見回す。男たちはみな首を振り、自分じゃないと示した。

眉をひそめたまま、安美はそれ以上追及しなかった。

宴席も終わりかけた頃、林原雪の夫が車で迎えに来た。

丸々と太った中年男で、全身ブランド物。首にはぎらぎらと金のネックレス。成金、と書いてあるみたいな風体だ。

林原雪は彼を見つけるなり嬉しそうに立ち上がり、腕にしがみつく。

「お迎えに来てくれたの? うれしい、旦那さま」

「おまえを一人で出歩かせて、安心できるかよ」

男は軽い手つきで、雪の頬をむにっとつまんだ。

林原...

ログインして続きを読む