第72章

彼女は稲子を見下ろし、そっと尋ねた。

『稲子。さっき助けてくれたおじさん、どんな人だった?』

稲子は首をかしげて少し考え、指を折るみたいに言う。

『背が高くて、かっこよかった。あとね、首に赤いほくろがあった』

江原安美の胸が、すとんと沈んだ。

川崎佑哉の首にも、赤いほくろがある。

まさか帰国早々、稲子が彼と出会ってしまうなんて。――父と娘の縁って、そんなに強いものなの?

稲子を抱く腕に、思わず力が入る。

『ママ?』稲子が不安そうに見上げる。『どうしたの?』

江原安美は我に返り、稲子を見つめた。目の縁が熱くなる。

『なんでもない。ママ、大丈夫』

そう言った途端、堪えていた...

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