第104章

いつからだったか、台所のほうからふいに人影がすっと現れた。

和泉静留が音のしたほうへ顔を向けると、そこには静岡館長が立っていた。目を細め、穏やかな笑みでこちらを見ている。

「師匠、私……」

静留が言いかけた瞬間、静岡館長はそっと首を振った。声はいつもどおり、静かで柔らかい。

「朝ごはんを作った。まずは少し食べなさい。話はそのあとでいい」

そう言い残すと、彼はくるりと背を向け、また台所へ戻って手を動かし始めた。

その背中を見つめながら、静留の瞳に申し訳なさが滲む。

あの一件以来、師匠の体はまだ万全じゃない。なのに自分は、まるで気遣いもせずに子どもたちを一晩まるごと任せてしまった。...

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