第135章

ずっと、和泉静留は「あの夜の男」は江原信也だと思い込んでいた。ほかの誰かだなんて、考えたこともない。

真っ暗闇で、相手の顔なんて見えなかった。何年も経ったいまでは、声だってもうはっきり思い出せない。

けれど、あの日を境に江原信也の態度は目に見えて変わった。冷え切って、露骨に距離を取るようになったのだ。

ほどなくして、静留は江原信也と和泉白子の関係に気づいた。――不倫。裏切り。

だが、そのときにはもう妊娠して数か月が過ぎていた。しかも三つ子。医師は中絶を勧めなかった。

初産で、なおかつ三胎。下手をすれば大出血し、二度と妊娠できなくなる可能性が高い。

選べる道なんて、最初からなかった...

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