第32章

「静留、ちょっと来て! 外に、バラの花束抱えた人が入口で待ってる!」

同僚が息を切らして駆け込んできた。顔には焦りがにじんでいる。

和泉静留は眉をひそめ、話を聞いた瞬間、表情がさっと変わった。

……どこの馬鹿だ。

葬儀場の前で、バラの花束だって?

ここがどういう場所か分かってないのか。

来る人間は皆、胸に悲しみを抱えている。そんな中で、あんな目立つ真似をされたら――彼女の仕事まで台無しになる。

静留は胸の奥で煮え立つものを押し殺し、同僚に礼だけ告げると、手早く制服を脱いで外へ出た。

出た瞬間、目に入ったのは――江原信也。

花束を抱えたまま、いかにも「想い人を待っていました」...

ログインして続きを読む