第35章

病院の消毒液の匂いがまだ身にまとわりつく中、黒いマイバッハが入院棟の正門をゆっくりと滑り出した。

後部座席に座る江原信也の手首には、まだ白い包帯が巻かれている。

本革のシートに深く身を預けた彼の顔色は、今にも水が滴りそうなほど陰っていた。

ここ数日、病院で療養していたあいだ、和泉静留はろくに詫びのひと言すら寄越さない。そのくせ和泉白子は毎日のように顔を出し、かえって神経を逆なでするばかりだった。

「調べはついたのか。あの子ども二人、どうやって幼稚園に入った?」

江原信也は目を閉じたまま、氷を噛ませたような声で言った。

前の席の運転手兼ボディーガードが、うやうやしく答える。

「若...

ログインして続きを読む