第75章

彼女が立ち上がって部屋へ戻ろうとした、そのとき。

平岩空人が手首を掴んだ。喉の奥で言葉を噛み砕くように、苦しげに言う。

『言いたくないわけじゃない』

その目があまりに真っ直ぐで、和泉静留の胸がきゅっと痛んだ。けれどすぐ、笑って受け流す。

『いいよ。無理に言わせるつもりはない。ただ――平岩景也の実の母親って、誰?』

それが、静留にとっていちばん気がかりなことだった。景也を見るたび、胸の奥がざわつく。理由はうまく言えない。言葉にしようとすると、霧みたいにほどけてしまう。

何度も、考えてしまった。

景也と華蓮があんなに気が合うなら、いっそ本当の兄妹だったらどれほど――と。

初めてそ...

ログインして続きを読む