第92章

平岩空人の視線が平岩景也に落ちる。口ぶりは淡々としているのに、胸の内ではとっくに算段を弾いていた。

『景也、もう遅い。帰るぞ』

その言葉を聞いた瞬間、平岩景也の小さな顔がぱっと曇った。反射的に和泉静留の服の裾をぎゅっとつかみ、首をぶんぶん振る。目いっぱいの不満がにじむ。

『帰りたくない。パパ、ぼく、ばあばとおばちゃんと華蓮と翔太といっしょにごちそう食べたい』

景也は分かっている。父が本当にしたいのは「帰る」ことじゃない。和泉静留のほうから引き留める言葉が出るのを、待っているだけだ。

和泉静留は一瞬、言葉に詰まった。

景也のしょんぼりした顔。そこからふと、平岩空人の――こちらをうか...

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