第93章

「おばさん。静留さんはいま、子どもと仕事で手一杯なんです。恋愛のことまで考えられないのも、無理ないですよね」

 そう言いながら、平岩空人は和泉静留へ視線を落とした。

 その瞳から、いつもの底知れない深さがふっと消えている。代わりに宿ったのは、澄んだ光だった。

「恋って、結局は縁ですし。縁が来たら、勝手に噛み合っていくものです。だから、あんまり焦らなくて大丈夫ですよ」

 和泉母は小さくうなずき、彼の言葉を受け入れる。

「そうねえ。なるようになるわよ。船が橋に着けば、ちゃんと渡れるもの」

 その一言に、和泉静留は思わず顔を上げた。視線が――ちょうど平岩空人とぶつかる。

 頬にさっと...

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