第98章

 今の空人の視線は翔太にばかり向いていて、景には妙な錯覚があった。――翔太のほうが平岩空人の本当の息子で、自分はただの余りものになったみたいだ、と。

 翔太はもうこちらへ歩いてきて、手を伸ばしてドアノブをひねろうとする。

 そのときだった。和泉静留が、ようやく帰ってきた。

『ママ!』

 華蓮が真っ先に駆け寄り、翔太もすぐ後ろに続く。強張っていた眉間が、ほんの少しだけほどけた。

 ママが無事なら、それでいい。ひとまずは――。

 けれど和泉静留は、いつものように華蓮を抱き上げなかった。翔太にも目を向けない。横にいる平岩景でさえ、まるでそこにいないかのように。

 彼女はまっすぐ部屋へ...

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